日産セレナのバッテリー2個搭載に見るS-HYBRIDの恩恵と維持費の実際

日産セレナのバッテリー2個搭載 日産
Auto Life Naviイメージ

「セレナのボンネットを開けたらバッテリーが2つあって驚いた」「交換費用が高いと聞いて不安になった」。
これから日産セレナ(C26/C27型 S-HYBRID搭載車)の中古車購入を検討している方や、初めての車検を迎えるオーナーの方から、よくこうした声を耳にします。

確かに、一般的なガソリン車であればバッテリーは1つが常識です。
なぜセレナはわざわざコストのかかる「2個積み」を採用しているのでしょうか?
単なる重量増やコストアップの要因に見えるこの設計には、実はミニバンという重い車体を少しでも快適に、そして実用燃費を向上させるための「S-HYBRID(スマートシンプルハイブリッド)」という日産の技術者の執念が隠されています。

結論から言えば、この2つのバッテリーは「快適な居住空間」と「スムーズな走り」を両立するために不可欠なチームプレーヤーです。
この記事では、カタログスペックの数字だけでは伝わりにくい、実際の運転シーンで感じる恩恵や、オーナーとして知っておくべきメンテナンスの現実(コスト)について、長年多くのミニバンに触れてきた経験から深掘りして解説していきます。

この記事のポイント
  • 振動ゼロでエンジンが目覚めるECOモーターの静粛性
  • 電装品の安定動作を守る「系統分離」と2つのバッテリー
  • 発進時の一瞬を支え燃費と快適性を高めるモーターアシスト
  • 交換費用は一般的な車の約2倍かかる維持費の現実
  • 寿命を縮めないための鉄則は「2個同時の新品交換」

S-HYBRIDシステムが生む静粛性と再始動の滑らかさ

セレナの運転席に座り、ブレーキペダルから足を離した瞬間、多くのドライバーがある「違和感」に気づきます。
それは、アイドリングストップからのエンジン再始動があまりにも静かで、振動が少ないことです。
一般的な車が「キュルキュル、ブルン!」とセルモーターのギアが噛み合う音と振動を伴って目覚めるのに対し、S-HYBRID搭載のセレナは、まるでスイッチが入ったかのように「スッ」と無音に近い感覚でエンジンが息を吹き返します。
この上質なマナーこそが、S-HYBRIDの最大の恩恵と言っても過言ではありません。

この静けさの正体は、エンジンの横に鎮座する「ECOモーター」と呼ばれる特別な装置にあります。
これは従来のオルタネーター(発電機)の役割に加え、エンジンのクランクシャフトをベルト介して直接回転させる「スターター」の機能と、発進時に動力を加える「モーター」の機能を併せ持った、一人三役の働き者です。
金属のギアを噛み合わせる従来のスターターを使わず、常に掛かっているベルトを使って滑らかにエンジンを回すため、あの不快な金属音や振動が発生しません。
家族が寝静まった深夜のドライブや、早朝の住宅街での発進時、この「音のない再始動」がいかにドライバーのストレスを減らしてくれるか、実際に所有してみるとそのありがたみが身に沁みます。

しかし、S-HYBRIDの価値は静かさだけではありません。
1.7トン近い重いボディを持つミニバンにとって、最も燃料を消費し、パワーが必要なのは「ゼロ発進」の瞬間です。
S-HYBRIDは、あくまで「シンプルハイブリッド」であり、トヨタのTHS-IIのようにモーターのみでEV走行することはできません。
しかし、その立ち位置は「黒子」に徹した実用性重視のものです。
派手なEV走行モードがないからといって、その効果を過小評価してはいけません。
日産が目指したのは、高価で重いバッテリーを積んで価格を上げるのではなく、既存のエンジンルームのスペースに収まる範囲で、最大限の効果を引き出すことだったのです。

ECOモーターが担うアイドリングストップ制御

信号待ちのたびにエンジンが止まり、発進のたびに再始動を繰り返すアイドリングストップ機能。
燃費には貢献しますが、再始動のたびに車体がブルッと震えたり、一瞬のタイムラグが生じたりすることに不満を持つ人は少なくありません。
しかし、セレナのS-HYBRIDにおける制御は、このネガティブな要素を見事に消し去っています。
ECOモーターによるベルト駆動での再始動は、クランクシャフトを瞬時に回転させるため、ブレーキを離してからエンジンがかかるまでの時間が極めて短いのが特徴です。

具体的には、ブレーキペダルから足を浮かせ始めた段階で素早く再始動が行われるため、アクセルを踏むタイミングではすでにエンジンの準備が整っています。
「止まっていることに気づかないほど自然」という評価は、決して大げさではありません。
特に、後席で子供が寝ている時や、会話を楽しんでいる時に、再始動のノイズや振動で水を差されない点は、ファミリーカーとして非常に重要な資質です。
この制御の緻密さは、日産が長年積み重ねてきたアイドリングストップ技術の成熟を感じさせます。

発進時に発揮されるモーターアシストの恩恵

「ハイブリッド」と聞くと、モーターの力だけでグイグイ走るイメージを持つかもしれませんが、S-HYBRIDのアシスト力はもっと繊細で、しかし確実なものです。
C27型セレナの場合、ECOモーターのスペックは最高出力約1.9kW(2.6PS)、最大トルク48N・m(4.9kgf・m)と、数値だけ見れば控えめです。
しかし、この約50N・mというトルクは、軽自動車のノンターボエンジンの最大トルクに近い力を、発進の一瞬(約1秒間)に上乗せしてくれることを意味します。

日産:セレナ 主要諸元

実際に運転してみると、信号が変わってアクセルを踏み込んだ瞬間、背中をポンと軽く押されたような軽快さを感じます。
重い荷物や多人数乗車をしている時ほど、この「最初の一押し」の効果は絶大です。
エンジン回転数を無駄に上げることなく、スルスルと車速が乗っていく感覚。
これこそが、燃費向上だけでなく、「ドライバーが無理にアクセルを踏まなくて済む」という疲労軽減の効果を生み出しています。
S-HYBRIDは、燃費数値以上に「走りの質感」を高めるためのデバイスなのです。

2つのバッテリーによる役割分担と系統分離のメカニズム

2つのバッテリー

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さて、ここからが本題の「なぜバッテリーが2つあるのか」というメカニズムの話です。
ボンネットを開けると、向かって右側に2つのバッテリーが並んでいるのが見えます。
これらは単に予備として2つ積んでいるわけでも、並列に繋いで容量を倍にしているわけでもありません。
S-HYBRIDシステムにおいて、この2つは「メインバッテリー(S-95)」と「サブバッテリー(K-42)」として、明確に役割が分担されています。

なぜ1つの大きなバッテリーでは駄目だったのでしょうか?
それは、S-HYBRIDが行う「エネルギー回生」と「大電流放電」があまりにも過酷だからです。
減速時にはECOモーターが発電機となり、強烈な勢いで電気をバッテリーに押し込みます(急速充電)。
逆に再始動時には、ECOモーターを回すために瞬間的に大電流を持ち出します(急速放電)。
もし、この激しい電気の出入りを1つのバッテリーで行うと、電圧が不安定になり、ヘッドライトが一瞬暗くなったり、ナビゲーションの電源が落ちたりするリスクが発生します。

そこで日産は、電気の回路を2つに分ける「系統分離」という手法を採用しました。
これは、家庭で言えば「エアコン専用コンセント」を設けるようなものです。
パワーが必要な荒っぽい仕事はサブバッテリーに任せ、繊細な仕事はメインバッテリーが担当する。
こうすることで、どれだけ頻繁にアイドリングストップやアシストを行っても、車内の快適装備には一切影響を与えない信頼性を確保しているのです。
これはコストダウンよりも「機能と信頼性」を優先した、技術者たちの良心的な設計と言えるでしょう。

バッテリー種類 形式目安 主な役割(得意分野)
メインバッテリー S-95 安定供給役 ナビ、エアコン、安全装備、ECUへの電力供給
サブバッテリー K-42 パワー役 再始動時の大電流供給、回生エネルギーの急速充電

メインバッテリーが支える電装品の安定動作

メインバッテリー(形式:S-95)は、その名の通り車の基礎となる電力を支える大黒柱です。
ヘッドライト、エアコン、オーディオ、ナビゲーション、そして先進運転支援システム(プロパイロットなど)のコンピューター類。
これらは電圧の変動を嫌う繊細な機器です。
もし電圧が不安定になれば、オーディオの音が飛んだり、最悪の場合は安全装置のエラー警告灯が点灯したりする恐れがあります。

このS-95バッテリーは、サブバッテリー側でどれだけ激しい充放電が行われていても、リレーによって電気的に保護された「安全地帯」として機能します。
そのため、アイドリングストップからの復帰時にも、ナビの画面が瞬いたり、エアコンの風量が落ちたりすることがありません。
一見地味な役割ですが、現代の車が「走るスマホ」のように電子機器の塊である以上、この安定供給こそが最も重要な性能なのです。
サイズも大きく容量も十分確保されており、エンジン停止中(アイドリングストップ中)の電力供給も主にこちらが担います。

サブバッテリーが受け止める回生エネルギー

一方、隣にあるひと回り小さなバッテリーがサブバッテリー(形式:K-42)です。
小さいからといって侮ってはいけません。
こちらはいわば「特攻隊長」のような役割を担っています。
減速時にECOモーターが発電した電気を、急速充電で一気に受け止めるのがこのK-42の主な仕事です。
通常のバッテリーよりも充電受入性能(電気を吸い込む能力)が極めて高く設計されています。

また、アイドリングストップからの再始動時、ECOモーターを回すための大電流を供給するのもこのサブバッテリーの役目です。
短時間に何度も繰り返される「急速充電」と「大放電」という、バッテリーにとっては寿命を縮めるような過酷なタスクを一手に引き受けています。
このK-42が身を削って働くおかげで、メインバッテリーは安定していられるのです。
「回生エネルギーを無駄なく回収し、再始動に使う」というハイブリッドの基本サイクルは、この小さなサブバッテリーの強靭なスタミナによって支えられています。

電圧変動リスクを回避し電子機器を守る安全設計

電子機器を守る安全設計

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セレナのS-HYBRIDシステムを理解する上で、「電圧変動」への対策は避けて通れないテーマです。
バッテリーが1つの車で、古くなったバッテリーを使っていると、セルモーターを回した瞬間にルームランプが「フワッ」と暗くなる現象を見たことがありませんか?
あれが電圧降下です。
通常のエンジン始動は乗車時の1回だけなので我慢できますが、アイドリングストップ車では信号のたびにあの現象が起きることになります。

もしセレナがバッテリー1個でこのシステムを動かしていたら、どうなるでしょうか。
再始動のたびにECOモーターが大量の電気を食い、システム全体の電圧が一瞬低下します。
すると、プロパイロットのカメラやレーダー、VDC(横滑り防止装置)といった安全に関わるECU(制御コンピューター)が、「電圧不足」と判断してリセットされたり、エラーを吐いたりする危険性があります。
走行中に安全装置がオフになるなど、あってはならないことです。

このリスクを物理的に遮断するのが、2バッテリーシステムの真の目的です。
再始動の瞬間、回路を切り替えてメインバッテリー(電装品側)を電圧降下の影響から切り離します。
これにより、サブバッテリーの電圧が一時的に下がっても、ナビやECUには常に安定した12V~14Vが供給され続けます。
コスト削減のためにバッテリーを1つに統合するメーカーや車種もありますが、日産はセレナという多人数乗車のファミリーカーにおいて、「絶対に電装系を落とさない」という安全マージンを優先しました。
ボンネットの中の2つの箱は、実はこの車の信頼性の証なのです。

バッテリー交換時期の目安と同時交換が推奨される背景

バッテリー交換時期の目安

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オーナーにとって、S-HYBRIDの最大の悩みどころは、やはりバッテリー交換費用でしょう。
「車検の見積もりを見たら、バッテリー交換で5万円以上と言われた」という話は決して珍しくありません。
特殊な「アイドリングストップ車対応バッテリー」であるS-95とK-42の2つが必要になるため、部品代だけでも一般的な車の2倍近くかかってしまうのが現実です。

交換時期の目安は、使用環境にもよりますが2年〜3年、距離にして3万〜5万キロ程度が一般的です。
「まだエンジンがかかるから大丈夫」と粘る人もいますが、S-HYBRID車の場合、バッテリーの劣化は「エンジンがかからない」という形ではなく、「アイドリングストップしなくなる」という形で現れます。
車側のセンサーが「バッテリーが弱っているから、再始動できなくなるリスクを避けるためにアイドリングストップを禁止しよう」と判断するのです。
メーターパネルにアイドリングストップの点滅表示が出たり、最近止まらなくなったなと感じたら、それが交換のサインです。

そして、必ず守るべき鉄則があります。それは「2個同時交換」です。
「サブの方が小さいし安いから、サブだけ変えよう」というのはNGです。
この2つのバッテリーはシステム内で連携しており、片方が新品で片方が古いと、古い方の抵抗値が邪魔をして新品の性能を発揮できず、結果として両方の寿命を縮めてしまいます。
また、バッテリー交換後には、車両側のコンピューター(積算リセット)の操作も必要になるため、ディーラーや知識のあるショップで作業を行うか、DIYの場合はメモリーバックアップとリセット作業の手順をしっかり確認する必要があります。
維持費はかかりますが、この2つのバッテリーが快適な走りを支えている必要経費と割り切る必要があります。

  • アイドリングストップしなくなる(警告灯の点滅)
  • スライドドアの動作が遅くなる
  • 新車登録または前回交換から3年以上経過している
  • エンジン始動時の音が以前より重く感じる

快適な移動空間を支える技術とオーナーが得られる価値

価値

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ここまで、日産セレナのS-HYBRIDシステムと、それを支える2つのバッテリーについて解説してきました。
一見すると「複雑で維持費がかかる」というデメリットに目が行きがちですが、その裏には「静粛性」「発進のスムーズさ」「電装品の安定動作」という、ミニバンに求められる快適性を高次元で実現するための合理的な設計思想があります。

特に、家族を乗せて走ることが多いセレナにおいて、発進時のショックが少なく、アイドリングストップの復帰が静かであることは、同乗者の車酔いを防ぎ、車内での会話や睡眠を妨げないという大きな価値につながります。
たかがバッテリー、されどバッテリー。
あの2つの黒い箱は、エンジニアたちが限られたスペースとコストの中で、「いかに家族の時間を快適にするか」を突き詰めた結果の結晶なのです。

これからセレナに乗る方は、ぜひ信号待ちからの発進の瞬間に耳をすませてみてください。
セルの音がせず、魔法のようにスッと走り出すその瞬間に、2つのバッテリーとECOモーターが見事な連携プレーを見せているはずです。
その「いい仕事」を知っていれば、数年に一度のバッテリー交換費用も、家族との快適な時間を守るための頼もしい投資だと思えるのではないでしょうか。
S-HYBRIDは、派手さはありませんが、使うほどに良さがわかる、実に「日産らしい」実直な技術です。

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